北海道のTMRセンターの現状 2023年3月10日
DAIRYMAN3月号に、秋田県立大学生物資源学部の岡田直樹氏による、北海道のTMRセンターの憂慮すべき現況が報告されていました。岡田氏によると、現在北海道にあるTMRセンターの問題点をまとめると、以下の通りです。
1 構成酪農家の減少 2 社長の確保が困難 3 構成員の協働意識の低下 4 従業員の安定確保 5 借入金の返済 6 TMR単価の引き上げ などです。
上記の中でも、特に問題なのは、構成酪農家の減少と、社長の確保、構成員の協働意識の低下です。
多くのTMRセンターでは、酪農家の離農が増えており、当初の構成員の数が減少傾向にあります。新しい構成員の確保は、新規就農者の募集ということになりますが、酪農家個人の力では、後継者を見つけるのは困難です。TMRセンター主導で、新規就農者を探すというのも、今後の役割になっていくのではないでしょうか?
次に社長の確保の問題ですが、岡田氏は、構成員ではない第3者の社長を据えることを提案しています。専任のマネージャーを据えて、構成員の負担を減らすというわけですが、なかなか現実的には難しいと思います。構成員や従業員からの信頼を勝ち取り、圃場を管理し、良質な飼料を製造するには、エサの知識も必要ですが、人間力や経営力も必要になってきます。やはり、社長には酪農家を据えて、事務長クラスの人をきちんと養成していくことが、現実的なのではないでしょうか?
次に、構成員の協働意識の低下です。協働意識の低下とは、自分たちのTMRセンターという認識が、歳月とともに薄れてしまい、エサを販売してくれる一つの会社としか思わなくなるということです。TMRセンターの中心人物の方々は、構成員にもっと積極的に、粗飼料の生産や飼料の製造に関わってもらいたいと思っています。しかし、構成員からの積極的な対応が見受けられず、粗飼料の質や、圃場の能力、サイレージの製造工程などにも、無関心の構成員の割合が増えているようです。起業時の崇高でエネルギッシュな気持ちが、歳月とともに低下していくことは、組織としては、良くあることだと思いますが、TMRセンターとして構成員が、自然と協働意識を持てるような工夫が必要なのでしょう。
北海道の各地にTMRセンターが、設立し始めて約20年になりますが、以上のように、歳月が経過しTMRセンターの運営は、大変厳しくなっています。今後、TMRセンターが生き残るためには、難しい経営判断も迫られます。人任せにせず、問題を一つずつ解決していかなければ、取り返しのつかないことになります。
北海道のTMRセンターの皆さん、協力して素晴らしい組織にして下さい。
暑さに強い、ホルスタイン
2023年2月20日
近年、温室効果による、地球温暖化の実害が、顕著になり始めています。そんな中、地球温暖化を防ぐ対策だけでなく、温暖化に適応していこうという考えも最近は、よく聞くようになりました。
2023年2月18日の農業新聞に、スリックホルスタインの記事が掲載されていました。
そもそも、スリックホルスタインとは、スリック遺伝子と呼ばれる、体毛が短くなる遺伝子を持つホルスタインの一種で、一般的なホルスタインよりも暑さに強いのが特徴です。同遺伝子は、元々南米の熱帯地域の在来牛が持っていましたが、交配によってホルスタインに導入されたそうです。
地球温暖化の影響で、夏場の暑さが厳しさを増す中、元来の送風機やミスト冷房などでは、もはや対応も限界に達しているということなのでしょう。
兵庫県は、2023年度、スリック牛の導入に向けて実証実験に乗り出すそうです。県の試算によると、搾乳牛50頭の経営の場合、全てスリック牛に置き換えることで、7月から9月の暑熱期の生乳の売上高が約5%(80万円ほど)増えるそうです。
現在、国内で一般販売されている精液は、産子の半分しかスリック牛にならないのが課題のようですが、将来的には、全ての産子がスリック牛になる精液が販売されるようになるそうです。
分娩から数日の管理が、その牛の将来を決定しているとしたら・・
2023年2月17日
初乳の重要性というものは、今や常識となっており、改めて皆さんに説明したり、強調したりするものでもないとは思いますが、初乳についての、新しい考え方が出てきましたので、皆さんに少々ご紹介をしたいと思います。
我々は、分娩後初乳を1回与え、あとは代用乳で注意深く哺乳をすれば、子牛はだいたい健康に育つという考えでここ数十年、子牛の哺乳について認識し実行してきました。
しかし、考えてみれば、母牛の乳成分は、回数を重ねるごとに常牛に近づくのであって、2回目の搾乳からいきなり常乳になるわけではありません。
最新の考え方では、徐々に初乳成分を漸減しながら常乳に近づけるほうが、自然界の理に、かなっているし、また、初乳成分の漸減が、子牛にとっても、有用な効果を発揮するということを唱える報告が出てきました。
ところで、子牛の小腸は、生まれたときは未熟な状態であり、生後数週間かけて発達していく過程をとります。また、あらゆる臓器の中で、最後に成熟する器官も小腸なのです。子牛に下痢が多いのは、まだ、小腸が未発達もしくは、発達中など、とにかく不安定な状態だからです。
初乳から常乳の間の乳を、移行乳と言います。
どうやら、この未発達の小腸を安定した小腸に「早く」そして、「力強く」完成させるのが移行乳ということがわかってきました。
既存法群(初乳給与後、代用乳)と、既存法プラス初乳製剤投与群(初乳給与後、初乳製剤を一定期間代用乳に混合し与えた)では、その後の健康状態、生涯乳量に明らかな差が出たという報告が出てきました。
初乳製剤は決して安いものではありませんが、与えた場合の利益は、初乳製剤の経費をはるかに上回るものになりそうです。
初乳成分には、まだ明らかに出来ていない何百という、生物活性物質が存在しています。初乳成分を、豚に投与したり、ヒトが摂取しても、さまざまな良い効果があることもわかってきました。いくつかの成分は、消化管において抗生物質のような抗菌活性を持つこと、炎症を防ぎダメージを受けた腸の修復を助けることもわかってきました。
酪農情勢が厳しい今だからこそ、原点に返って健康で元気な牛を、育てることに重点を置き、酪農経営にいそしんで行きましょう。
温暖化防止の取り組みが、世界で加速していますが、そういった中で現在、牛が出すゲップの中にある、メタンガスが無視できない問題となっているそうです。世界の温室効果ガスの4%ぐらいを占めているという計算があります。
世界では地球温暖化防止のために、牛乳や乳製品を食べる事を控えようという運動が広がりつつあります。今年4月には、様々な料理のレシピを紹介するアメリカの人気サイトが、牛肉を使ったレシピの新規掲載を取り止める、と発表しました。その理由を、このサイトの運営会社では「世界で最悪の気候犯罪者の一人に出番を与えないため」と表現していて議論を呼んでます。メタンガスは、二酸化炭素と比べて25倍の温室効果があるようです。
ところで、2016年、オーストラリアのジェームスクック大学が「カギケノリ」と呼ばれる海藻に含まれる「ブロモフォルム」というハロゲン化合物が、メタン細菌の働きを抑える効果があるという研究結果を発表しました。 「カギケノリ」を牛の餌に少量混ぜることで、胃の中で発生するメタンをおよそ9割抑えられるという研究結果でした。
そこに目をつけた、スウェーデンのボルタグリーンテックというスタートアップ企業で、この「カギケノリ」を牛の餌用として、養殖する事業を始めました。現在、自社で生産し「カギケノリ」を、餌用に粉末にして、ストックホルム近郊の農家に試験的に供給しているということです。
これからは、脱炭素牛というブランドが出てくるらしいです。
時代ですね。
以下の文章は、5年ぐらい前だったかな?農業新聞の記事で、内田樹(たつる)氏の文章です。
日本の農業を米国に倣って、大規模化・機械化・企業化せと説く「強い農業」論者たちがいる。彼らは、まるでそれが「最終的な唯一の正解」のように語るが、残念ながらそのようなものは存在しない。それより、彼らが米国農業の特殊性を見落としていることが、私には気になる。
米国の農業は、奴隷を200年間にわたって商業作物栽培に使役することでその強大な基盤を構築した。奴隷制度廃止で、「ただ同然の労働力」を失った直後に、今度はテキサスで石油の大鉱脈が発見され、再び米国は「ただ同然のエネルギー」を手に入れた。奴隷と石油。それが米国農業の歴史的アドバンテージの実態である。
だが、米国の効率的なマネージメントを模倣しさえすれば、日本の農業も「強く」なると論じる人たちが、米国農業の特殊な歴史について言及するのを私は聞いたことがない。
自分のメモに上記の文章が書いてありました。今では、このような文章もすっかり目にしなくなりました。
あれから、数年たち、クラスター制度によって、全国各地でメガファームが誕生しました。
さて、日本の酪農も効率化がずいぶん普及しましたが、この先、どのように社会トレンドが進行して、人々の望む価値観も変化していくのでしょうか?
結果は、もう少し時間がたたないとわかりません。
DAILYMAN2018年9月号に、根室生産連の佐藤拓也さんが、根室管内で発足した「根室管内クロスブリーディング導入推進プロジェクトチーム」のことについて、ご説明されていました。簡単に言うと、ホルスタインに違う品種を授精させ、雑種を作るということのようです。クロスブリーディングの先進地は、北欧(デンマーク、オランダ、スウェーデン、フィンランド等)諸国です。アメリカでも、近年はこの考え方が進み、今では全乳牛のうち約10%は、クロスブリーディングの牛のようです。
さまざま品種が存在している、ヨーロッパにおいて、北欧諸国では、「モンベリアード種」と、「バイキングレッド種」という2種類の品種を使い、クロスブリーディングを行っているようです。
さて、このクロスブリーディングの生まれた背景ですが、簡単に言えばホルスタイン種では、満足出来ない状況が生まれたということです。体が大きくて乳は出るけど、繁殖性、抗病性、長命性を考えると決して満足いくものではない。クロスブリーディングの効果として、ホルスタイン種との比較では、繁殖力や健康形質が10~15%も向上し、分娩難易度は1/5程度に低下、年間乳量は6~7%ほど低下するも生涯乳量は上回る結果が出ているそうです。
実現に向けては、まだまだ困難ことがあるようですが、いずれ日本でもこの技術がスタンダードになる可能性はありますね!是非、頑張って下さい。
DAIRYMAN2018年9月号に、北海道大学工学部教授の渡慶次学先生が、開発中の妊娠判定紙チップのことについての、インタビュー記事が掲載されていました。この、紙チップを用いて、乳汁を使い妊娠判定を行うと、プロジェステロンの濃度を感知し、約5分で妊娠判定が可能になるそうです。さらに、この紙チップ、妊娠後18日~20日前後で判定が可能だそうです。
最近、日本でもPAG(妊娠関連タンパク質)検査によって、妊娠30日以上の牛で、妊娠判定が行われています。PAGに関しては、北海道の各地で、ローリーの運転手さんが乳汁を回収し、乳検組合が判定を行うようになってきました。妊娠判定が、従来よりも早く、しかも、獣医を呼ばなくても好きな時に行えるため、多くの酪農家がそのありがたみを実感しています。
人間でも、尿によって妊娠鑑定が可能なのですから、いつか牛でもこのようなものが開発されて欲しいと思っていましたが、とうとう実用化されそうです。
DAIRYMANの2018年9月号に、酪農学園名誉教授の安宅一夫先生が、日本の草地について、以下のようなことを書かれていました。
「草地酪農の先進地である、ニュージーランドでは、単位面積当たりの乾物収量が、北海道の2~3倍もある。また、1haの草地から約20tの牛乳生産が可能である。一方、北海道では、6t以下とされている。ニュージーランドの基幹牧草は、ペレニアンライグラスとシロクローバー、デンマークではペレニアンライグラス、アメリカではアルファルとトウモロコシである。一方、北海道の基幹牧草は、チモシーで、しかも草地の半分は雑草である。その品質と栄養価は、デンマークの基準では、超低消化牧草に分類される」そうです。
私が疑問なのは、酪農学園の先生始め、多くの酪農研究者が、この世界の実情を把握していながら、一向に
北海道酪農が変わらないのは、なぜなのか?という素朴な疑問です。
ペレニアンライグラスが、そんなに良ければ広まればいいのですが、それが広まらない。気候の問題なのでしょうか?それとも、やる気がないのでしょうか?
次の日本における酪農の課題は、粗飼料の大転換です。もし日本に最も適した粗飼料が見つけ出され、それがしっかりと広がっていけば、こんな有意義なことはありません。研究者の方、どうか北海道酪農を根底から覆すような、粗飼料研究をお願いします。
マイコプラズマは、肺炎、乳房炎、関節炎、中耳炎など牛の感染症を考えるうえで、大変重要な病原菌です。このマイコプラズマに関して、臨床獣医2017年2月号で、酪農学園の樋口先生が興味深いことを書かれていました。
マイコプラズマは、Vspという菌体表面にある生体への接着を担うタンパク質の発現パターンを変化させる能力があるらしいのです。マイコプラズマは、自身の抗原性を巧みに変化させながら免疫を回避しているようです。
また、マイコプラズマの増殖は、生体側(宿主側)に依存するために、環境での存在はあまり詳細がわかっていなかったようですが、感染農場では、敷料、飼槽、水槽および空気中などからもマイコプラズマはが検出されることがわかってきたようです。また、環境中に存在しているマイコプラズマは、条件がそろえばその環境中でも爆発的に増えることも可能らしいのです。
肉牛素牛農家でマイコプラズマ性中耳炎が次から次へと感染する時期があるのですが、あれは、環境の方からも対策を実行しないとなかなか収束しないのかもしれませんね。
臨床獣医、2017年3月号の、海外テクニカルニュースの欄に、メロキシカム(メタカム)の経口剤を去勢時に投与すると、去勢時の炎症を著しく軽減させるという報告がありました。カナダで発売されているそうです。フルニキシンについては、ヨーロッパにおいて背中にかけるプアオンタイプが発売されているようです。
牛に極力優しい飼養管理という観点から、今後、このような薬剤を使用する機会が、日本でも増えると思います。
DAIRYMAN2016年8月号に、静岡県東部NOSAIの伊藤拓也先生が、乾乳をしないことで周産期疾病の発生率を低下させることができるとの記事が、ありました。
それによると、乾乳牛と無乾乳牛では、分娩後の疾病発生率で、乾乳牛が20.0%、無乾乳牛が13.0%。同様に1頭あたりの診療回数が、乾乳牛が4.0±2.3、無乾乳牛が2.0±0.7。発症牛1頭当たりの診療費(円)が、乾乳牛が27,043±1109、無乾乳牛が9,660円±333だったそうです。
年間総乳量は、ほとんど差が認められなかったそうです。
伊藤先生によると、どんな牛も無乾乳に向いているわけではなくて、過肥牛、高温期分娩予定牛など、分娩後の使用管理が難しい牛が対象のようです。
逆に、無乾乳に向いていないのは、痩せすぎの牛、乳質が悪い牛、時期分娩が2産目の牛、双子分娩予定の牛だそうです。
過肥牛の分娩後の管理は、どんな酪農家も苦労しています。今後は、牛をみて乾乳の有無を決断する飼養管理が、普及する可能性があると思いました。
DAIRYMAN、2016、7月号に湧別町の酪農家、志鎌輝嘉さんの草地管理について記事がありました。哲学といい実践といい、素晴らしいと思いました。以下に、抜粋。
1.牧草地は3~4haづつ6ブロックに分けて6年ごとに牧草とトウモロコシを輪作し、次作に移行する時には草地を更新する。
2.新草地での雑草対策は、一番草収穫作業が終わる7月上旬に、掃除刈りを徹底する。そうすることで、8月下旬から9月上旬に品質、量といもに満足できる草がとれる。
3.草種は、オーチャドグラス(20kg/ha)、アルファルファ(3kg/ha)、シロクローバー(1kg/ha)の組み合わせ。
4.採草地への施肥は、年4回。マメ科率を維持するには、リン酸肥料が欠かせない。窒素肥料が多いとイネ科に負ける。
5.生堆肥の散布はしない。堆肥舎は月1回移動と切り返しを行う。
などなど・・・。
詳しいことはわかりませんし、初めて知ることも、たくさんありました。
志鎌輝嘉さんは、牧草地が23haと少ないために、限られた草地から十分な栄養収量を確保するために、混播草地を選択しその維持のために、努力をしているようです。
草に関して、情熱と努力を持って対峙している酪農家は、やはりすごいなぁと単純に感動します。土と草へのこだわり。
農業者のもっとも尊敬されるとろではないでしょうか?
臨床獣医の6月号に、世界初の乾乳促進剤がヨーロッパで発売されるという記事がありました。この成分は、ドパミン作動薬のカルベルゴリンという成分で、最終搾乳後に筋注するようです。カルベルゴリンは脳下垂体に働きかけてプロラクチンの産生を止め、乳分泌を止め、乳分泌を減らして乳房圧を下げ、乳漏れを防ぐそうです。
同社の技術責任者Dr.L.Munozは「乳牛の産乳量はここ20年で飛躍的に増えたが、乾乳技術は昔のままである。そのために本剤は、乾乳をスムーズに完了させて乳房の健康を守るためのものである」と語っています。
2030年における、世界の穀物不足量は、5億トンほどになるという予測があります。問題はこの5億トンという数字です。農林省が2016年1月13日に公表した2015/16年度の世界の穀物需給予測では、需給ともに24億6000万t強で「均衡」しているらしいです。しかしこの数字の4割は家畜のエサに回されているらしいのです。家畜だけで、9億8400万tも使用していることになります。
2030年に穀物の生産量がどれほど伸びているのかが、わからないので、5億t不足と言われても不足割合が、どれほどのものになるかはわかりません。
予測するに、20%から15%ぐらいは不足することでしょう。
2030年になって、人も家畜も穀物の奪い合いに仮になったとしたら、飼料価格というものは、一体どれだけ上昇するのでしょうか?今後も、低価格の濃厚飼料を輸入し続けることができるのでしょうか?
そんなこと考えると、クラスター事業だとか、ロボット搾乳だとか、真剣に考えることが馬鹿らしくなってきます。安価な濃厚飼料に委ねられている、日本の畜産の危うさをついつい心配してしまいます。
どんな畜産も、エサがなかったら事業が継続できないんですから!
デーリーマン9月号に、ニュージーランドの厳しい酪農事情が記事に載っていました。簡単に言えば、生産者が得る乳代よりも生産費(経費)が上回ってしまい今年(2015年)の6月から来年の5月までは、利益が出ない状態が続くということです。
その前に、ニュージーランド酪農の特徴を簡単に説明しますと、ニュージーランドの酪農家1万2150戸のうち1万0500戸は、フォンテラ社という乳業メーカーと取引をしています。フォンテラ社が生産者から買い取る乳価は、乳製品の国際指標であるグローバルデーリートレードと為替などから計算されて決定されます。乳価は毎年5月に発表されて、6月から来年の5月まではその発表された乳価で取引されます。ニュージーランドの生乳生産量が2060万t、日本が750万t。ニュージーランドの人口が430万人、日本1億2000万人。ですから、ニュージーランドの乳製品の95%近くは輸出されています。
今年の乳価は、乳固形分1kgあたり3.85NZドルで、これは生産費5.70NZドルを32%も下回るものです。
ニュージーランド酪農のように、ほとんどを輸出に依存している国にとって、国が売り先を見つけることは死活問題に関わる重要なことです。
国際競争力と簡単に言っても、市場に左右されるものを大量に生産しても、極めて危険なことがよくわかります。
ここ10年ほどで北海道をはじめ全国で、次から次へとメガファームが誕生し、また新しい計画が次から次へと雑誌や新聞に掲載されています。その度に、エネルギーがあるなぁと思って見てます。しかし、つくづく思うのは酪農はなんでこんなに国家の補助金が当たるんでしょうか?「強い農業づくり事業」「クラスター事業」。半額の補助ですから、10億の事業なら5億まで補助が出ます。他産業から見てもかなり恵まれているような気がしますが、実は、半額の補助を出しても酪農事業に参入してくれた方が、計算上国家にメリットがあるという計算が成り立っているのでしょうか?
考えてみたら、酪農産業って裾野が広くて、そこに関わる人間が、なんと多いことか!
半額の補助なんて簡単に税金として回収しているのかもわかりませんね。
Dairy Japanの2014年7月号で、丹波屋の村上求さんが、ルーメンアシドーシスのリスクという特集で、サイレージの発酵について興味のあることを書かれていました。デントコーンのデンプン発酵性は、サイレージ調整後の貯蔵期間によって変化し、発酵性を最大とするには6カ月以上必要で、牛のデンプン消化率は、貯蔵当初52%だったものが、12か月後には70%まで向上したという報告があるらしいのです。
私ども士別動物病院の、ここ最近の特徴として、5月から7月にかけて第四胃変位をはじめ、アシドーシス、ケトーシスが、かなり頻発する傾向があります。今までは、冬が終わり温度の上昇によりサイレージの品質が低下していることが、疾病多発の原因と想像していましたが、村上さんの説明で考えると品質が低下していたのではなく、発酵が進みむしろ消化率が上昇し、デンプン過多状態に陥っていたのではないかと推測できます。配合のトップドレスを増やしたような、状況というのでしょうか!
品質が低下したでのではなく、むしろ良化したと!
来年からは、配合を減らすか、乾草を与えるかして、飼料を調整するように自信を持って説明しようと思います。
この理論が、一番ストンと私の疑問を解決してくれました。
先日、デイリーサポート士別の社長である、玉置豊さんと少しお話をする機会がありました。デイリーサポート士別は、サイレージを精製し、TMRを製造する飼料供給会社です。また、構成員の初生メス牛を預かり哺育育成するカーフセンターと、後継者育成のための研修牧場も併せ持つ、ほぼ完ぺきなサポート体制を整えています。
玉置社長がもっとも危惧しているのは、構成員の意識です。デイリーサポート士別は飼料の供給会社ではありますが、ホクレン等の飼料会社などではありません。あくまでも、自分達の会社であり、構成員である酪農家がいかに、この事業に積極的に関わって、より進歩的に発展させていくことが大事なんだと、おっしゃっておりました。
その通りだと思いました。
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